2010年、3人目の子どもが誕生。譲さんは当時、経理部の課長だった。特定社会保険労務士になりたての妻、加奈子さん(38)を支えようと、保育園に子どもを預けるため出社時間を1時間繰り下げた。社内規定に沿ったもので、業績も上げていたため問題になるとは思わなかった。
しかし、子どもが熱を出した時などの対応も夫婦で分担し、早退を繰り返すうち、社内の空気が変わった。社長に呼び出され、言い放たれた。「お前の仕事と奥さんの仕事のどっちが大切か、家庭で話し合え」
カチンときた。妻より夫の仕事が大事に決まっている、という前提が見えたからだ。さらに、4人目の子に恵まれると同時に加奈子さんが保育園を開業。譲さんは自ら降格を申し入れた上で1年間の育児休業を取った。職場復帰の際、守衛室での勤務を、と言われた。

引用元:2015/8/20付 毎日新聞 (【ガラスの天井】とらわれの私たち/2 男性育児への理解進まず)

「父親の育児休業」が注目されるようになった日本社会。1996年度の調査以来過去最高の数値…というものの未だに日本国内における父親の育児休業取得率は2.65%程度(2015年度 厚生労働省発表)と低く、活用が進んでいません。共働きか専業主婦家庭かに関係なく、育児・介護休業法に基づく制度として父親も育児休業を取得できるはずですが…なぜ父親たちは育児休業を取得「できない」のでしょうか。それとも…「しない」のでしょうか。

1、職場の雰囲気…上司や同僚の理解が得られず断念

男性の育児休業が進まない理由の一つに「職場の雰囲気」が挙げられます。
冒頭にご紹介した記事の中でも、上司から「お前の仕事と奥さんの仕事のどっちが大切か、家庭で話し合え」と迫られる場面がありましたが、ほかにも「育休とるなんて言わないでね」「うちの会社で育休とれるはずなんてないでしょう」「出世に響くよ」などと上司や同僚から念を押されるなどして、「雰囲気」的に育児休業取得を諦める父親は少なくありません。

これらの発言の裏には「休まれたら仕事が回らなくなる」という不安感が存在することもあるようですが、実際には"職場の事情"よりも「男は稼いで家族を養うもの」「男が外で働き、女は家を守るもの」という"性別役割意識に基づく価値観"が影響しているケースが多いようです。"発言"に留まらず、"降格や減給"などの処分を下されることまであるそうで、流石に憤りを感じます。

こうした状況を踏まえ、男性が育児をする権利や機会を、職場の上司や同僚などが侵害してはならないという考えから、「父性に対する嫌がらせ」として「パタニティーハラスメント(通称:パタハラ)」という新たなハラスメント用語まで生まれています。

妻の妊娠や子どもの誕生をきっかけに「家事も育児も夫婦で協力して行いたい」と考える男性も増えつつある時代。

女性だけでなく、「男性も親になることで働き方や暮らし方を見直したり、価値観が変わることがある」という認識に立って、職場でのコミュニケーションのあり方を考えていく必要があるように感じます。

2、育休に対する様々な「誤解」から断念

育児休業取得については、「自分は取得対象外」「取得期間中は収入がなくなる」などと誤解している方をたまに見かけます。制度内容を正しく理解することも、育児休業取得に向けた第一歩です。

①「自分は対象外」という誤解
育児休業は「夫婦のうち一人しか取れない」「男性は取れない」「夫婦同時取得はできない」と思っていたりしませんか?共働き家庭であれ、専業主婦・夫家庭であれ、子どもを養育する「労働者」であれば、法律に基づいて取得できる休業が育児休業。

男性も女性も、夫婦同時でも、「雇用されて働いている人」であれば正社員かどうかに関係なく取得できます。特に、パート・派遣・契約社員の方の中には「自分は対象外」と思っている方が多いように感じますが、実は取得することができる可能性もあります。よく調べずに諦めてしまう前に、勤め先に確認してみることをお勧めします。
《補足》
※「雇用契約の期間に定めがある場合」は「同じ事業主に引き続き1年以上雇用されていること」「子供が1歳に達する日を超えても、引き続き雇用されることが見込まれること」を満たしていなければ、育児休業取得の権利が発生しません。。
※会社の労使協定で同時取得を禁じている場合には、夫婦同時取得ができません。勤め先に確認をしてみてください。


②「収入がなくなる」という誤解
育児休業取得中は「育児休業給付金」が支給されるため「収入が全くのゼロ」ということにはなりません。支給額は、休業開始前の賃金の67%(半年以降は50%)ですが、育児休業給付金は非課税で社会保険料が免除されるため、手取り賃金の8割程度が保障される計算です。また、余談ですが育児休業給付金は会社が負担するものと誤解している方がおられます。実際には「雇用保険」によって賄われているものです。受け取ることに後ろめたさを感じる必要はありません。

3、夫婦の間で「父親が育児休業を取得する意味(メリット)」が理解・共有できておらず断念

男性の育児休業が進まないもう一つの理由…それは、「本人や夫婦の間で、父親が育児休業を取得する意味が共有されていない」というケースです。「育児は女性の役割」という 性別役割分業に根ざした意識は「周囲だけ」でなく、当事者である「母親や父親」の中にも根強く残っていることがあります。そのため、「夫まで育休を取る必要はない」「子どもが小さいうちは母親の出番の方が多いはず」などと、「父親が育児休業を取得する意味」が夫婦間で理解・共有されず、取得に至らないことも多いのです。

では、「父親が育児休業を取得する意味」とは何なのでしょう。

・仕事一筋の生活を振り返るきっかけになる
・仕事よりも、子どもや妻のことを優先して対応できるようになる
・生活に対する態度や生活力(家事・育児など)を改善できる
・産後、心身が不安定になりがちな妻のケアをすることができる
・妻と一緒に育児や家事などの「家のこと」に取り組む時間の中で夫婦のパートナーシップが強化される
・夫婦・家族の絆が強まり、子育ての質が高まる。(子どもの精神面も安定するという意見もある)

など、挙げればきりがありませんが、子育てをはじめとする「家のことの主体者」が家庭内に増えるということに、そもそも大きな意味があるのではないでしょうか。

妻だけでなく、夫だけでなく、夫婦で「家のこと」に向き合う。


育児休業期間中は、職場でのキャリアを休業することにはなりますが、自らの人生のキャリアを休業する…というわけではありません。子どもやパートナー、家族と過ごす時間の中で「家のこと」に向き合いながら、人生をより豊かなものにしていくためのヒントを得る期間と捉えることで、価値ある時間に変えていくこともできるのです。

「大切な話」を「大切な人」としていますか?

ここまでに、父親たちが育児休業を取得できない・しない理由について考えてきました。

実際に育児休業を取得したことがある父親に話を聴くと、「子どもや家族と過ごす時間を大切にしたかったから」「夫婦で協力して子育てをしたかったから」「妻の負担を軽くしなければと思ったから」「家庭と仕事を両立させるチャンスになると思ったから」など、さまざまな動機が語られますが、「妻とよく話し合った」ということについては動機に関わらず共通しているようです。

なぜなら、育児休業の取得は、社内の制度や風土が整っていること以上に、
夫婦間で合意できていない限り実現しないから。

育児休業を取得するかどうかは、ご夫婦・ご家族の判断ですが、もしこれを読んでくださっているあなたが「父親」で、「育休を取得したいのにできない」と悩んでいるようであれば、まずは身近なパートナーである妻との間でその気持ちを共有してみてください。

また逆にあなたが「母親」で、「夫に育児休業をとってほしい」「夫が育児休業のことで悩んでいるかもしれない」など、何らか思い当たることがあれば、相手の考えを「やさしく(笑)」聞き出してみることをお勧めします。


子どもを授かると、夫婦二人だけの生活の時と比にならないほどに、子どもや家族にまつわることについて意見を交わす場面に出くわします。​その中で、ぶつかり合うこともきっとあるでしょう。

それでも、「二人で話し合うこと」を諦めないで。

自分一人で悩みを抱え込んだり、自分一人の思い込みで判断しようとせず、大切な人と、大切な話をしていくこと。
あなたと共に生きることを選んでくれたパートナーと対話する中で、夫婦・家族としての道を見出せるようになることを願っています。

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