「お掃除を通して、子育て中のお母さんたちが働きやすい環境、世代を超えて子どもたちに愛される街をつくりたい」
そう話すのは、福岡県春日市の住宅地の一角にある「株式会社お掃除でつくるやさしい未来」の代表 前田雅史さん。「えがお巡回清掃」と名付けられた、アパートやマンションの共用部分の清掃業務をはじめ、家、店舗、エアコン、チャイルドシートのクリーニングを行う会社を経営している。
それにしても、なぜ「お掃除」なのか?
前田さんが思い描く「やさしい未来」に迫った。
福岡大学の商学部第二部(夜間)を卒業し、一部上場のシャッターメーカーに入社を決めた前田さん。「面接官の営業部長が、同じ夜学の出身でね。苦労を買ってくれたんですよ」と、就職氷河期当時の様子を笑って振り返る一方で、新人時代の苦い思い出も話してくれた。
入社1年目、はじめに任されたのは同業他社がシェア100%を占める佐賀県での新規営業。全く売上を上げられずに苦戦する中、東京や大阪の大都市で大きな取引経験を積んでいる同期との温度差を感じ、自暴自棄になった。
そんな時、上司にある取引先に連れて行かれる。そこで見たのは、土下座寸前で謝る上司の姿。「こんな場になぜ自分を連れてきたのか?」と考えていた帰りの車中で、上司に言われた。
「前田、己を知れよ」
ハッとした。
根拠のない自信を持ち、現実から逃げていた自分と向き合った瞬間だった。
その後の前田さんは、ただひたすらお客様との信頼関係を築くことに力を尽くした。日々の営業活動はもちろんのこと、飲み会やゴルフ、温泉など、取引先との付き合いを大切にする内に自然と結果もついてくるようになったという。そうして「この会社での使命は全うできた」と感じた時、今度は「自分の力で組織を創りたい」と思った。
「どんなビジネスで起業しようか」
あれこれ模索する中で、建設会社との付き合いの場に唯一姿を見せなかった「清掃業者」のことを思い出した。掃除が好きとかキレイ好きというわけではない。ただ、「取引先との付き合いに顔を出せないほどに仕事がある業界」という点が、当時の前田さんには魅力に思えたのだ。
そうして、清掃業での起業を心に決め、6年間勤めた会社を退職。福岡市内に拠点を移し、技術や組織運営のノウハウを学ぶために建設会社でのアルバイト生活をスタートさせる。そこから3ヶ月後にはアルバイト先を辞め、個人事業で清掃の仕事をはじめ、更に半年後にはお世話になったアルバイト先から「清掃部門を買ってほしい」と言われるまでになった。
従業員も資機材もお客さんもそのまま引き受ける形ではあったが、念願叶って「自分の組織」ができた。しかし、そこには「仕方なく働く人」しかいない。自分が理想とする組織をつくるために「採用と教育」に力を入れた。
だが、採用募集をかけてもなかなか思うような良い人材は来ない。来るのは不良の若者がほとんどという中、0から仕事を教えても「清掃なんかやめてちゃんと働け」「もっといい仕事に就け」と親や周りに言われて辞めていく…そんな状況が続いた。
会社も自分もボロボロで脱力状態。人を育てるということにも限界を感じていた時、たまたま入社した一人の女性に救われた。この女性との出会いが、後の子育て応援企業になるきっかけでもあり、会社を立て直すきっかけとなる。
彼女は、自分が「どうしようもない」とあきらめていた若者にも正面からぶつかっていった。まるで自分の子どもに接するような、愛情のある教育。そこに子育て中の女性の凄さ、強さを見たのだ。
「これが、人を育てるということなのか」
かつての自分を反省し、働きたいと思うお母さんたちの力を借りながら、もう一度、良い組織を目指そうと心に決めた。
そんな折、岩手県の農業法人で、「3時間農業をしませんか?」という声掛けの元に子育て中のお母さんたちを雇っているという取り組みを知った。子育て中のお母さん達と一緒に農業を始めたところ、3年間で市場や地域がガラリと変わったそうだ。
市場も何もかも違うが、仕組みが当てはめられるような気がした。
そうして試行錯誤の末生み出された仕事が「お掃除巡回サービス」だった。
「お掃除巡回サービス」はマンションやビルの共用部分の清掃を請け負う仕事。月に何度か物件を訪ねて簡単に掃き・拭き掃除をする。直行直帰で、お買い物のついでに、小さな赤ちゃんをおんぶしていても大丈夫。時間も30分~1時間程度。子育て中でも「何か仕事をしたい」と思っているお母さんたちが無理なく働ける仕事だ。
前田さんは、今後この仕組みを全国に広めたいと考えている。
それも、本社から人を送る「単身赴任」という形ではなく、信頼ある地元の人を雇用するスタイルで全国展開したいそうだ。
というのも、お掃除巡回の仕事は、ただ掃除して終わりではない。自分たちが暮らす街を、自分たちで、安心・安全な街にするという「防犯」の視点や、一人暮らしの高齢者が増える昨今、お掃除を通して顔見知りになり、手を差し伸べられる存在にもなるという「助け合い」の視点があるのだ。そこで暮らす人々の心に寄り添い、暮らしを整える。
お母さんたちを中心とした暮らしのコミュニティづくりや、自分たちが暮らす街をもっと好きになる仕掛けが詰まったこの仕事が、近い将来「あたりまえ」になる日が来るのかもしれない。
ライター:佐藤 美奈
子育て期にやさしいPoint!
寄り添える会社と信頼できる仲間
「特別な取り組みはないですよ。人それぞれ、生活スタイルに合わせて寄り添える会社でありたいと思っているだけです」と前田さん。
“寄り添える会社” まさにその言葉がぴったりだと思う。
「休みや就業時間、ライフスタイルに合わせて選べます」
求人でもよく見かける文言だ。しかし、制度はあるが機能していない現状を経験する人も多い。
子育て期とは想定外の毎日だ。困ったときに手を差し伸べてくれるかどうかで会社の真意が見えると言っても過言ではない。ただただ寄り添ってくれる、一緒に考えてくれるというのは本当に心強い。この会社は特別な「制度」はないが「寄り添い」を大切にしている。想定外の毎日を「制度」に当てはめたって何の意味も成さないと考えているのだろう。
「子連れ」で、「好きな時間」に「直行直帰」!
小さな赤ちゃんがいても、おんぶしながらできる仕事。
保育園や幼稚園に預けている間に、時間を見つけてできる仕事。
でも、責任を持って取り組める仕事。
マンションやビルの共用部分の清掃を「パートナー」と言う形で請負う。請負うといっても特別難しいものではない。時間にして30分〜1時間程度。月に何度か担当物件を訪ねて、掃き・拭き掃除をする。その際壊れている箇所や、気になることがあれば本部にメールで報告する。
「お買い物のついでに掃除をして帰るイメージ」と前田さん。お買い物に行って、その帰りに掃除をする。今日のお買い物代分働いた!そんな働き方ができる。何より、自分たちが暮らす街をきれいにし、子どもたちの安全に気を配ることが仕事に繋がるのだから気持ちが良い。
子どもたちにも「学び」がある仕事
掃除という行為は、子どもの心を育む一環にもなる。母親が掃除をしている姿を見て、「ごみを拾う」という行為自体が当たり前になる。
これだけでも立派な教育だ。何より、母親が「一所懸命に働く姿」を見ることで、子どもは「働く」ことに自然と意味を見出すようになる。小さい頃に、母親が外で働く姿を見せられる機会はそれなりに貴重だ。
「お母さんと一緒にお掃除をした記憶」「お母さんの働く姿を見た記憶」が、子どもたちの中にやさしい記憶として残っていく。そこに、子どもたちにとってもかけがえのない学び・成長があるように思う。
会社名/団体名 | 株式会社お掃除でつくるやさしい未来 |
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設立 | 1999年9月1日 |
代表者 | 代表取締役 前田雅史 |
資本金 | 3,000,000円 |
従業員数 | 71名(男性3名・女性68名) ※パート・アルバイト含む |
所在地 | 〒816-0852 福岡県春日市一の谷1-135 TEL:092-915-0160 FAX:092-915-0161 |
事業内容 | ハウスクリーニング 店舗クリーニング エアコンクリーニング チャイルドシートクリーニング |
車両数 | 10台 |
加入保険 | AIU損害賠償保険 |
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